2010-08-10(Tue)
巡査長 美咲 ~淫妖水魔編~ ≪第四話≫
男の話によれば、自分は大手工作機メーカーの常務取締役で、海外事業部に席を置き、
2週間ほどかけて中東から欧州へと出張、帰国したところで上の女性が勤める銀座のクラブに行くと、
そこのママから4日ほど無断欠勤をしていると聞き、
次の日、つまり今日、来てみたらこのような有様になっていたという。
部屋に入るときの状況はと聞くと、普段どおりで特に変わったこともなく、
鍵も閉められていたので、鍵を使って入った。
リビングは電気もついておらず、私がつけて名前を呼んだが反応がなかったので寝室に入ると、
倒れている女性を発見した。
正直、お目当てのここの住人とは思えなかった。
ただよくよく考えてみると別人がここに入り込む余地はなく、本人だとしか理解できなかった。
「部屋の明かりは全部消えていたのですね」
「いや、寝室だけはついていました」
「他に部屋に変わったことはありませんでしたか」
「特になかったように思えます。 正直のところ怖かった。
なにも触ることはできず、ただ警察に連絡しなくてはならないとしか考え付きませんでした」
部屋の鍵を持っているくらいだから、それなりの関係なのだろうが、
出張前に何か彼女の変わった様子はなかったかと聞くと、特段何もなく普通に過ごしていたと答えた。
女性の名前はと聞くと「山口さゆり」本名かどうか知らず、年は39だという。
他に似たような関係を持つ男性について聞くと、
「正確にはわかりません。 たまにスケジュールが合わないときがあり、
これだけのマンションに住んでいるのだから、他に支援してもらっている男性がいるかもしれません。
ただマンションの鍵を持っているのはどうやら私だけのように思えます」との事だった。
「出張の前に何か特別なものはもらわれませんでしたか」
高橋はチラッと美咲を見た。
冷たい目で美咲は男を見下ろしている。
「女性の刑事さんがいる前でなんなのですが、お守りをもらいました」
「そのお守りとはなんですか」
男は口を噤んだが、意を決したように、
「彼女の陰毛です。 私が外で悪いことしないように財布の中に入れられました」
「見せてもらえますか」
男は財布を取り出し、中にある綺麗に折りたたんだティッシュを取り出した。
開くと一本の毛が入っていた。
「すみません、それをお預かりすることができますか」
「こんなものが何かのお役に立ちますか?」
「この毛と、上にいる女性とDNA鑑定にかけます。 そうすればご本人かどうかわかります。
この毛は山口さんのものに間違いはないですね」
「間違いありません。 私の前で抜いてティッシュに包みましたから。 どうぞこれを差し上げます。
私としても上にいた女性をさゆりと思いたくありません。
が、DNA鑑定ならはっきり判りますよね。 どうぞお使いください」
「彼女の身内の人はご存知ですか」
「東北のある市の出身と聞いています。 母と妹が健在だとか。 残念なことに詳しいことは知りません。
お店のママに聞けば何か分かると思います」
「ありがとうございました」 山科は丁重に礼を述べた。
高橋の連絡先を聞き、今日はお帰り頂き、後日また連絡しますと伝えた。
高橋は深々とお辞儀をし、部屋を出ていく。
扉が閉まった瞬間、美咲は「最低なやつ」とつぶやいた。
どうしてだいと聞くと、「奥さんがいるのに、愛人なんか作って!」
「私なら絶対許さないから!」 怒り心頭に憤慨している。
15階にいたときの弱々しい態度から一変しているので、笑うと
「なによ! その笑いは!」
これ以上、笑うとこっちにとばっちりが来そうなので、むりやり真顔にして、
「じゃぁ、上に行こっか」 席を立った。
どうやら美咲を振り向かせお尻をぶったことは、気づかれていないようでホッとした。
エレベーターホールで「上に戻るけど大丈夫か?」と聞くと、またも体を寄せてきた。
「上についたら離れるから今だけお願い」
エレベーターの中では腕にしがみつき、体も寄せてきた。
山科は背中に膨らみを感じたが、それより下ろしている手がどうやら彼女の太ももに当たっているみたいで、
山科は緊張していた。
確かめるにも変な動きをしたら、それこそ後でどうなるのか分からない。
山科はいらない冷や汗をかいた。
部屋に戻ると岸上代理と鑑識がせわしく調査をしていた。 巡査も残ってくれている。
岸上代理に通報者の詳しい話を伝えた。 そして預かったティッシュを取り出す。
「そいつは良かった。 鑑識に頼もう。 これではっきりわかる」
「こっちはもう仏さんを運び出すだけだ。 詳しい話は帰ってからにする」
「すいません」と巡査を呼んだ。
「後は運び出すだけだから、もう帰っていただいて結構です。 ご苦労様でした。
帰りについでに管理人を呼んでもらえませんか。 鍵を閉めなくちゃいけないので」
遺体を運び出すのにあわせて管理人が来た。
「じゃぁ、後は宜しくお願いします」
車に乗り込むと「美咲さんもお疲れさん。 たいへんだったね。 署に着いたら帰っていいよ」
「はい、ありがとうございました」
美咲の明るい声に、山科は女の変わりようは怖いものだと思えた。
2週間ほどかけて中東から欧州へと出張、帰国したところで上の女性が勤める銀座のクラブに行くと、
そこのママから4日ほど無断欠勤をしていると聞き、
次の日、つまり今日、来てみたらこのような有様になっていたという。
部屋に入るときの状況はと聞くと、普段どおりで特に変わったこともなく、
鍵も閉められていたので、鍵を使って入った。
リビングは電気もついておらず、私がつけて名前を呼んだが反応がなかったので寝室に入ると、
倒れている女性を発見した。
正直、お目当てのここの住人とは思えなかった。
ただよくよく考えてみると別人がここに入り込む余地はなく、本人だとしか理解できなかった。
「部屋の明かりは全部消えていたのですね」
「いや、寝室だけはついていました」
「他に部屋に変わったことはありませんでしたか」
「特になかったように思えます。 正直のところ怖かった。
なにも触ることはできず、ただ警察に連絡しなくてはならないとしか考え付きませんでした」
部屋の鍵を持っているくらいだから、それなりの関係なのだろうが、
出張前に何か彼女の変わった様子はなかったかと聞くと、特段何もなく普通に過ごしていたと答えた。
女性の名前はと聞くと「山口さゆり」本名かどうか知らず、年は39だという。
他に似たような関係を持つ男性について聞くと、
「正確にはわかりません。 たまにスケジュールが合わないときがあり、
これだけのマンションに住んでいるのだから、他に支援してもらっている男性がいるかもしれません。
ただマンションの鍵を持っているのはどうやら私だけのように思えます」との事だった。
「出張の前に何か特別なものはもらわれませんでしたか」
高橋はチラッと美咲を見た。
冷たい目で美咲は男を見下ろしている。
「女性の刑事さんがいる前でなんなのですが、お守りをもらいました」
「そのお守りとはなんですか」
男は口を噤んだが、意を決したように、
「彼女の陰毛です。 私が外で悪いことしないように財布の中に入れられました」
「見せてもらえますか」
男は財布を取り出し、中にある綺麗に折りたたんだティッシュを取り出した。
開くと一本の毛が入っていた。
「すみません、それをお預かりすることができますか」
「こんなものが何かのお役に立ちますか?」
「この毛と、上にいる女性とDNA鑑定にかけます。 そうすればご本人かどうかわかります。
この毛は山口さんのものに間違いはないですね」
「間違いありません。 私の前で抜いてティッシュに包みましたから。 どうぞこれを差し上げます。
私としても上にいた女性をさゆりと思いたくありません。
が、DNA鑑定ならはっきり判りますよね。 どうぞお使いください」
「彼女の身内の人はご存知ですか」
「東北のある市の出身と聞いています。 母と妹が健在だとか。 残念なことに詳しいことは知りません。
お店のママに聞けば何か分かると思います」
「ありがとうございました」 山科は丁重に礼を述べた。
高橋の連絡先を聞き、今日はお帰り頂き、後日また連絡しますと伝えた。
高橋は深々とお辞儀をし、部屋を出ていく。
扉が閉まった瞬間、美咲は「最低なやつ」とつぶやいた。
どうしてだいと聞くと、「奥さんがいるのに、愛人なんか作って!」
「私なら絶対許さないから!」 怒り心頭に憤慨している。
15階にいたときの弱々しい態度から一変しているので、笑うと
「なによ! その笑いは!」
これ以上、笑うとこっちにとばっちりが来そうなので、むりやり真顔にして、
「じゃぁ、上に行こっか」 席を立った。
どうやら美咲を振り向かせお尻をぶったことは、気づかれていないようでホッとした。
エレベーターホールで「上に戻るけど大丈夫か?」と聞くと、またも体を寄せてきた。
「上についたら離れるから今だけお願い」
エレベーターの中では腕にしがみつき、体も寄せてきた。
山科は背中に膨らみを感じたが、それより下ろしている手がどうやら彼女の太ももに当たっているみたいで、
山科は緊張していた。
確かめるにも変な動きをしたら、それこそ後でどうなるのか分からない。
山科はいらない冷や汗をかいた。
部屋に戻ると岸上代理と鑑識がせわしく調査をしていた。 巡査も残ってくれている。
岸上代理に通報者の詳しい話を伝えた。 そして預かったティッシュを取り出す。
「そいつは良かった。 鑑識に頼もう。 これではっきりわかる」
「こっちはもう仏さんを運び出すだけだ。 詳しい話は帰ってからにする」
「すいません」と巡査を呼んだ。
「後は運び出すだけだから、もう帰っていただいて結構です。 ご苦労様でした。
帰りについでに管理人を呼んでもらえませんか。 鍵を閉めなくちゃいけないので」
遺体を運び出すのにあわせて管理人が来た。
「じゃぁ、後は宜しくお願いします」
車に乗り込むと「美咲さんもお疲れさん。 たいへんだったね。 署に着いたら帰っていいよ」
「はい、ありがとうございました」
美咲の明るい声に、山科は女の変わりようは怖いものだと思えた。