2012-10-17(Wed)
下田の海 8話
手洗いから戻ってくると男の子たちはなぜかソワソワしているようでした。
「ピアノ、聞きたい?」
「うん! 聞きたい、聞きたい!」
「別にいいけど、うちんちだよ。 学校はだめだし」
「えっ、音は大丈夫なの? 大きな音を出したら近所迷惑じゃないの」
「こいつんちの隣は・・・ どうだろうな・・・走って5分?」
「ん~、そんなもんかも知れん」
「でっかい家なんだ。 こいつんところは漁師で、昔は人も雇っててみんな一緒に住み込みで働いていた家だから」
「へぇー、そんな大きな家なんだ」
「そのかわりボロいよ」
「迷惑じゃないかなぁ・・・」
「あっ、それは大丈夫。 ぜんぜんかまわないから」
「じゃぁ、お願いしてもいいかしら」
「じゃぁ、行ってみる? おとん! ちょっと行ってくるわ」
「飯食ったら今度は“おとん”かい! どうだったお譲ちゃん、たらふく食べたかね?」
「ええ、とってもおいしかったです。 ありがとうございました」
「いやいや、そう言われると俺もうれしいわな」
「で、おいくらですか?」
「息子の友達に金取るわけにはいかねぇから、いらねえよ」
「それは困ります」
「なら、そうだなぁ・・ そんなら一千万円!」
「?」
「バカ! 父ちゃん、娘さんが驚いているでしょ。
ごめんなさいね。 千円のことですから」後から出てきたお母さんが言ってくれました。
「えっ! 千円! そんなの、安すぎます」
どうみても会社の近所で同じものを食べたら、ひとりでも5千円以上の料理のはずです。
それが3人分。
「いいってことよ。 そのかわりだ。 なんだ。 まぁ今度は俺の相手するためにまた寄ってくれ」
「父ちゃん、江戸っ子になってる?」
「ガッハハハハ」
「ありがとうございます。 本当においしかったです。
また来られるかどうかわかりませんが、その時は宜しくお願いします」
「ああ、ぜひ、友達誘って来てくれ」
車に戻って貴志君のおうちに向かいました。
車を走らせて10分ほど、少し離れた場所に貴志君のおうちはありました。
「おじゃまします。 あれ?」
「玄関、壊れてんだよ。 こっち、こっち」
「玄関、壊れてるって?」
「父ちゃんが昔、台風が来るときに用心のために固定しちゃったら、どうにも動かなくなってやんの。
普段あんまり使ってないからそのままにしてあんだ」
「へぇー、玄関、使わないの?」
「部屋からそのまま入るから、平気なんだ」
「戸締りは?」
「そんなもん、しないって。 用心してもあっちこっちから入れるし、別に取られて困るもんないし」
「ふ~ん、おおらかなんだ」
「このへんには盗っ人、いないよ。 みんな仲間だし」
「そっかぁ~、なんとなくいいなぁ、そんな環境って」
「この部屋だから、上がって」
庭からはいると、直接お部屋が見えました。
部屋は障子が開けっ放しで、大きな畳の部屋に黒いグランドピアノが見えます。
た、た、たたみの部屋にアコースティックピアノって・・・?
よく見るとピアノの下に板はひいていますが、それでも畳が・・・
よくも大丈夫なものと感心してしまいました。
それにしてもグランドピアノ、さすがに、びっくり!しました。
「おうちの方は?」
「今は誰もいないと思う」
「えっ! どうして?」
「おやじは海に出てて明日の朝まで帰って来ないし、
母ちゃんは町の寄合に行って、帰りに妹を拾って帰るから夜遅くなる」
「妹さんは? どこかに行ったの?」
「水泳で関東大会に行ったから、たぶん東京」
「へぇー、すごいんだ」
「そうなのかなぁ、よくわかんないけど・・・そのおかげでこっちの晩飯はレトルトカレー…」
「あはは、そうなんだ。 かわいそうにね。 お留守の間に勝手におじゃましてもかまわないのかなぁ?」
「いいよ、別に。 僕らがいるんだし」
「そう? 大丈夫なの?」
「かまわないって、上がって、上がって」
「お邪魔します」
縁側にある石段に靴をそろえて上がりました。
「広いおうちね」
「広さだけね。 古い家だから。 こっちに座って」
ピアノの後ろに座布団を敷いてくれました。
「ピアノ、聞きたい?」
「うん! 聞きたい、聞きたい!」
「別にいいけど、うちんちだよ。 学校はだめだし」
「えっ、音は大丈夫なの? 大きな音を出したら近所迷惑じゃないの」
「こいつんちの隣は・・・ どうだろうな・・・走って5分?」
「ん~、そんなもんかも知れん」
「でっかい家なんだ。 こいつんところは漁師で、昔は人も雇っててみんな一緒に住み込みで働いていた家だから」
「へぇー、そんな大きな家なんだ」
「そのかわりボロいよ」
「迷惑じゃないかなぁ・・・」
「あっ、それは大丈夫。 ぜんぜんかまわないから」
「じゃぁ、お願いしてもいいかしら」
「じゃぁ、行ってみる? おとん! ちょっと行ってくるわ」
「飯食ったら今度は“おとん”かい! どうだったお譲ちゃん、たらふく食べたかね?」
「ええ、とってもおいしかったです。 ありがとうございました」
「いやいや、そう言われると俺もうれしいわな」
「で、おいくらですか?」
「息子の友達に金取るわけにはいかねぇから、いらねえよ」
「それは困ります」
「なら、そうだなぁ・・ そんなら一千万円!」
「?」
「バカ! 父ちゃん、娘さんが驚いているでしょ。
ごめんなさいね。 千円のことですから」後から出てきたお母さんが言ってくれました。
「えっ! 千円! そんなの、安すぎます」
どうみても会社の近所で同じものを食べたら、ひとりでも5千円以上の料理のはずです。
それが3人分。
「いいってことよ。 そのかわりだ。 なんだ。 まぁ今度は俺の相手するためにまた寄ってくれ」
「父ちゃん、江戸っ子になってる?」
「ガッハハハハ」
「ありがとうございます。 本当においしかったです。
また来られるかどうかわかりませんが、その時は宜しくお願いします」
「ああ、ぜひ、友達誘って来てくれ」
車に戻って貴志君のおうちに向かいました。
車を走らせて10分ほど、少し離れた場所に貴志君のおうちはありました。
「おじゃまします。 あれ?」
「玄関、壊れてんだよ。 こっち、こっち」
「玄関、壊れてるって?」
「父ちゃんが昔、台風が来るときに用心のために固定しちゃったら、どうにも動かなくなってやんの。
普段あんまり使ってないからそのままにしてあんだ」
「へぇー、玄関、使わないの?」
「部屋からそのまま入るから、平気なんだ」
「戸締りは?」
「そんなもん、しないって。 用心してもあっちこっちから入れるし、別に取られて困るもんないし」
「ふ~ん、おおらかなんだ」
「このへんには盗っ人、いないよ。 みんな仲間だし」
「そっかぁ~、なんとなくいいなぁ、そんな環境って」
「この部屋だから、上がって」
庭からはいると、直接お部屋が見えました。
部屋は障子が開けっ放しで、大きな畳の部屋に黒いグランドピアノが見えます。
た、た、たたみの部屋にアコースティックピアノって・・・?
よく見るとピアノの下に板はひいていますが、それでも畳が・・・
よくも大丈夫なものと感心してしまいました。
それにしてもグランドピアノ、さすがに、びっくり!しました。
「おうちの方は?」
「今は誰もいないと思う」
「えっ! どうして?」
「おやじは海に出てて明日の朝まで帰って来ないし、
母ちゃんは町の寄合に行って、帰りに妹を拾って帰るから夜遅くなる」
「妹さんは? どこかに行ったの?」
「水泳で関東大会に行ったから、たぶん東京」
「へぇー、すごいんだ」
「そうなのかなぁ、よくわかんないけど・・・そのおかげでこっちの晩飯はレトルトカレー…」
「あはは、そうなんだ。 かわいそうにね。 お留守の間に勝手におじゃましてもかまわないのかなぁ?」
「いいよ、別に。 僕らがいるんだし」
「そう? 大丈夫なの?」
「かまわないって、上がって、上がって」
「お邪魔します」
縁側にある石段に靴をそろえて上がりました。
「広いおうちね」
「広さだけね。 古い家だから。 こっちに座って」
ピアノの後ろに座布団を敷いてくれました。